父が亡くなったのは、肌寒い秋の日のことでした。覚悟はしていたものの、いざその時を迎えると、悲しみに暮れる間もなく、喪主である私は葬儀の準備という現実に飲み込まれていきました。葬儀社の方との打ち合わせで、次々と決めなければならない事項が並ぶ中、私の頭を特に悩ませたのが「返礼品」の問題でした。「返礼品の相場は、いただいたお香典の半額、いわゆる半返しが基本です」と担当者の方は丁寧に説明してくれましたが、その説明を聞けば聞くほど、私の心は重くなりました。父は交友関係が非常に広く、会社関係者から地域の友人まで、多くの方に慕われていました。きっと、たくさんの方が弔問に来てくださるだろう。そして、いただく香典の額も様々に違いない。全員に同じ品物をお渡しする「当日返し」は楽だけれど、高額な香典をくださった方に失礼にならないだろうか。かといって、後日一人ひとりの香典額を確認して品物を送る「後日返し」は、悲しみの中にある母や私の負担が大きすぎるのではないか。相場という基準はあっても、それをどう運用すればいいのか、全く分かりませんでした。親戚からは「昔は海苔とお茶が定番だった」というアドバイスをもらいましたが、現代の生活スタイルにそれが本当に喜ばれるのか疑問でした。悩んだ末、私は葬儀社の方の提案を受け入れ、当日返しと後日返しの組み合わせで対応することに決めました。当日は三千円程度のカタログギフトを用意し、すべての方にお渡しする。そして、後日、三万円以上の香典をくださった方には、差額分の品物を改めてお送りするという方法です。カタログギフトを選んだのは、年代も好みもバラバラな方々に、少しでもご自身が欲しいものを選んでほしいという想いからでした。葬儀が終わり、少し落ち着いた頃、父の友人から「心のこもったお返しをありがとう。カタログで選んだお肉で、家族みんなで親父さんの思い出話をさせてもらったよ」と連絡をいただいた時、私は心から安堵しました。相場やマナーも大切ですが、それ以上に故人と遺族の感謝の気持ちをどう形にするか、悩み抜いたその時間こそが本当の供養だったのかもしれないと、今は感じています。