「私たちの仕事は、決して止まることがありません。死はカレンダーに関係なく訪れるからです」そう語るのは、葬儀社向けにドライアイスを専門に配送している会社のベテランドライバー、佐藤さん(仮名)です。ドライアイスの製造工場は常にマイナス70度以下の冷気に包まれており、そこで巨大なプレス機によって成形された10キログラムのブロックが、佐藤さんのトラックに積み込まれます。配送先は街の葬儀社や斎場、時には直接ご遺族の自宅まで多岐にわたります。ドライアイスは製造された瞬間から昇華が始まる「生もの」であり、在庫を長期保存することができないため、ジャスト・イン・タイムの配送が求められます。特に年末年始や大型連休中、火葬場が休止して安置日数が延びる時期は、配送ルートが通常の3倍以上に膨れ上がるそうです。佐藤さんは深夜2時に出社し、防寒服に身を包んで作業を開始します。「冬場は自分たちの体は楽ですが、葬儀の依頼が増えるので仕事量はピークになります。逆に夏場は暑さでドライアイスがどんどん溶けていくので、スピードが命です。トラックの冷凍庫を開ける時間を1秒でも短くするために、積み込みの順番には細心の注意を払っています」と現場の苦労を明かします。配送中、佐藤さんが最も気を使うのは、ドライアイスの品質です。割れてしまったり、角が丸くなったりしたドライアイスは冷却効率が落ちるため、葬儀スタッフから敬遠されます。形が整った綺麗なブロックを届けることが、故人を冷やす際の配置のしやすさに直結するからです。また、最近では環境意識の高まりから、二酸化炭素を排出するドライアイスの使用を控える動きもありますが、それでも停電時や自宅安置での圧倒的な信頼性は揺るぎません。「私たちが運んでいるのは単なる冷却材ではなく、ご家族が最期のお別れをするための『時間』そのものだと思っています。だからこそ、どんな悪天候の日でも、必ず指定の時間までに届けるのがプライドです」佐藤さんのような影の立役者が、365日休みなくドライアイスを運び続けることで、日本の葬儀文化の根幹である「遺体安置」が支えられているのです。